修士では曽根研究室に所属し、 曽根 悟 教授・古関 隆章 講師の御指導のもとで 修士課程での研究「高密度運用を可能とするロープレス鉛直輸送システム」 を行なった。
超々高層ビルや大深度地下計画などでは、鉛直方向の輸送を担うエレベータの 性能向上が重要である。しかし、現在のロープ式エレベータでは輸送力・制御 性の面で、今以上の高層化は厳しいとされている。 そこで、ロープ式に代わり、ロープレスエレベータ方式が注目されている。 これは、ロープ式にない次の2つの特徴的な機能があり、 ロープ式の持つ高層化時の諸問題の解消が期待されている。
現在、ハードウエアとしてのリニアモータの検討が行なわれているが、ハード ウエアができた段階での運行方法に関する議論は本格的になされていない。 また、ソフトウエアの検討から、ハードウエアの必要性能などの貴重な知見が 得られることから、ハードの検討段階からソフトとしての運行方式を考えるの は重要である。これらの背景をもとに、筆者はロープレスエレベータ方式の運 行方式について研究を行なうこととした。
筆者は、上記のような特長を持つロープレスエレベータの運行形態が、鉄道に 類似することに着目し、鉄道とロープレスエレベータを対比することによっ て、議論を進めた。そして、ロープレス方式の運行において、鉄道の運 行ダイヤを応用することや、3本のシャフトを1つのユニットとして運行する ことなどを提案した。
また、定量的解析として、ロープレスエレベータにおける運行スケジューリン グ方法に言及し、理想的条件を仮定した上での理論を展開した。そして、様々なパ ラメータの下で、このスケジューリング方法に基づいて実際に運行スケジュール を作成した。パラメータを変えて計算を行なったことにより、次のことが明ら かとなった。
1 では、ロープレス方式が、期待される高層時の性能を十分満足することを証 明することになる。また、2 では、ロープ式との設計パラメータが根本的に 違うため、ロープレスの性能を発揮させるには設計条件に十分注意を払う必要 があることを示している。今後のロープレスエレベータ開発において、重要な 知見が得られたのではないかと思う。
また、定性論に留まったが、乗客発生の確率的分布に対応する方法についても 簡単にまとめている。かごどうしが衝突するのを防ぎながら運行するため、従 来のエレベータ群管理とは違うことを考えることが必要であり、そのためには、 リアルタイムでスケジューリングを行なう必要があることを指摘した。
最後に、本論文で残された問題点は、乗客のランダムな発生を考慮し たモデルの構築とスケジューリングでの対応策を定量的に検討することである。
上記の運用方法実現のためには、鉛直方向だけではなく、水平方向への速やかな移動を実現することが重要である。したがって、曽根・古関研究室での研究として、鉛直輸送用の2次元駆動リニア同期モータの研究も行なっている。理想論としての運用方法の研究と、その実現のためのハードウエアの研究をうまく噛み合わせることを目指している。