卒論の研究室は茅・堀研究室であった。茅 陽一 教授・堀 洋一 助教授の 御指導のもとで、「都市構造と運輸エネルギー消費に関する研究」を行なった。
オイルショックをきっかけとして、エネルギーシステムには変化があらわれ、 エネルギー効率面での無駄が改善されてきた。さらに近年話題になってきた CO2による地球温暖化の対策の一つとして再び省エネルギーが 叫ばれている。 日本のエネルギー消費の約半分を占める産業部門ではエネルギー消費の 伸びが停滞しているが、運輸エネルギー 消費の伸びは、GNPの伸びにほぼ比例的に増加する傾向を示し ている。さらに、運輸用の流体燃料は、ほぼ全 量を化石燃料に依存している。 このことは、経済成長と地球温暖化抑制の両立を 図るためには早急に運輸 エネルギー消費の抜本的な削減方法を議論する必要性を示唆している。 一方、運輸エネルギー消費の中心である都市部における 道路交通の混雑には改善の兆しはみられず、交通渋滞の結果燃費の悪化等を もたらしている。したがって、現在の都市は運輸エネルギー 多消費型の構造となってしまっていると言わざるを得ない。 運輸エネルギー消費を、燃費(kcal/km)÷乗車人数(人)×輸送量(人キロ) と捉えれば、基本的に都市の運輸エネルギー削減の方法 には、次の3つの方向性が考えられる。
1,2 は、ユーザーサイドを中心とした比較的短期的な方策である一方、 3 は公共政策的な面が強い 長期的課題といえる。しかしながら、地球温暖化抑制のために構造的に化石 燃料消費を削減するためには 3 の視点が不可欠である。 一方、従来都市構造と交通に関しての数学的関係についての研究は二、三ある が、交通エネルギーにまで目を向けた研究は見当たらない。 そこで、本研究では 3 に注目し、都市構造と運輸エネルギー 消費の関係をモデル化し、最適な都市構造を導いてみた。
まず,都市の形や道路網などによってもたらされる都市交通の幾何学的性質を知るた め,簡単な幾何学的モデルによって解析を行なった.これにより,円形都市における放 射環状道路網では,環状道路への迂回によって放射道路の交通量が中心に近いほどやわ らげられることや,環状道路は中心からかなり離れた所が込むことなどを数式的に導い た.また,長方形都市における格子状道路網では,正方形がトリップ距離的にもっとも 有利であること,最短距離となる経路のみでも経路選択則を変えると各部の交通量が激 変するということも数式的に明らかにできた.
しかし,上記のモデルでは都市構造面の考慮は全くなされておらず,都市構造がエネ ルギー消費に与える影響については分からない.そこで,次に,居住地・業務地・道路 の3つの土地利用を考え,都市構造から生じる交通量を考慮し,エネルギー消費を最小 化する最適モデルを構築した.ここでは都市の大きさおよび人口は一定とし,また,簡 単のため,自動車による通勤交通と業務交通のみを考え,2点間の交通量は距離に依存 しないモデルとした.この解析により,エネルギー消費最小化の結果は移動時間最小化 の結果とあまり変わりがないということ,ある人口に対して最適な人口密度が存在する ことなどが明らかになった.
そして,都市構造では,人口密度によって職住分離や職住近接の両方の形が現れると いう興味深い結果が得られた.2点間の交通量が距離に依存しないという仮定のため, 職住分離の形はトリップ距離が少ない構造であるが,上下方向の交通量の偏りが大きい ので道路の利用率は低くなる.逆に職住近接の形は交通量の偏りが少なく,少ない道路 を有効に利用することができるが,すぐ近くに業務地があっても遠くに通う人が多い ため、トリップ距離が多い構造である.したがって人口密 度が低く,道路容量に余裕のある場合には職住分離の形,人口密度が高く,道路容量に 余裕がないときには職住近接の形をとるという解析結果となったのである.
この結果を現実の都市と比較すると,ニューヨークやパリは解析結果で説明のつく都 市構造となっているが,東京は解析結果に似ているとは言えなかった.また,モデルを 現実の都市に当てはめるとき,高層化による中心部の高密度地域,周辺部の低密度地域 という二重構造でとらえないとうまく説明がつかず,本モデルに含まれていなかった高 層化の概念が必要であることを示唆している.